042向山良作さん、榊原彩さん
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向山良作さん。
「高校生の頃は、ピアノを弾けるお医者さんを目指していました」 小さい頃から電車が大好き。愛読書も時刻表、と笑います。

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榊原彩さん。
「小さい頃は姉とピアノを習っていましたが、私はサボってばかり。母はそんな私を見かねてある時、クラリネットかチェロのどちらかを選びなさいと言われました」
即、チェロに決めた9歳の彩さんです。

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向山良作さん、榊原彩さん

ピアノとチェロ、ふたりのリサイタル

昨年の秋に、郡山市公会堂でピアノとチェロの演奏会が開催された。
演奏するのはピアノ向山良作、チェロ榊原彩の二人。おふたりはご夫婦で、年に一度リサイタルを開いている。
一年に一度聴くピアノとチェロの演奏会は、知らずにいた曲との出合いの場でもある。その時に聴かなければ一生知り得ないかもしれない旋律に思いを馳せる。
一曲目の始めの一音が水滴のように胸に落ちる。それは思いのほか心に響き、次に続く音色へと流れていく。いつもその瞬間に感動する。
この定期演奏会は、2001年から始まり13回目を迎えた。
二人は昨年の9月までフランスのパリに在住、演奏会は良作さんのご両親や高校生時代の恩師と友人に支えられてきた。
開演前の会場で、サポートする友人たちの学生時代に戻ったようなはつらつとした様子は見ていて気持ちがいい。縁の下の力持ち、サポーターの心づかいを思う。

フランスの出会い

お互いを作ちん、彩ちゃんと呼び合う。
ふたりはフランスで出会った。
良作さんが知人に招かれアパートを訪ねた時にドアを開け出迎えてくれたのが彩さんだった。
「彩ちゃんは知人と部屋をシェアしていたのです。その頃、彩ちゃんはパリの室内楽などでチェロを演奏していました。初めて聴く彼女のチェロは、地面から沸き上がるようなお腹に響く音でした」
良作さんは、大学は外国語学部フランス語学科を経ての渡仏。日本の音楽大学は出ていない。
そんな良作さんのピアノの音が彩さんには新鮮だった。
「いいなあ、と思いました。音大を出てフランスに来ている人は、自分はこんなに弾けるよとアピールする。けれど良作はそうじゃない。ピアノが好きなんですね。この人はピアノが大好きで弾いているんだということがその音色から伝わりました」
自分をとりまく音楽をする人は変わっている人が多い。そんな中で彼との出会いは心を落ち着かせ何よりも普通の人、というところに惹かれたという彩さんだ。
良作さんは、彩さんは出会った頃と少しも変わっていないと話す。ひとつひとつの事柄に真っ直ぐに向き合い、人に対して自分の思いをきちんと届けることを大切にしている朗らかで笑顔のチャーミングな女性だ。

クラシックの楽しさを伝えたい

ふたりはフランスで25年間の音楽活動に終わりを告げ、2015年の秋に帰国した。
「これからは、郡山を拠点に東京や関西方面で演奏活動をしていきたい。雑多なことが目の前に積み重なっていますが、あせってもしょうがない。今は種を蒔いている時ととらえています」
お互いの目を見て頷き合うふたりだ。
現在は、郡山市内にある良作さんのご実家で暮らしている。
「ここでピアノとチェロの小さな音楽院を開きたい。フランスではパリ市内の数カ所の音楽教室で教えていました。小さい子から82歳の年配の方まで50人位の生徒さんがいました」
教えることにより自分たちも成長したいと話す。
彩さんは、以前から日本の子どもたちにもチェロを教えたいと思っていた。
「チェロは外国人が演奏するために作られた楽器なので日本人には大きすぎる。けれど身体をうまく使えば負担をかけずに無理のない演奏ができます。そういうことからひとつずつ丁寧に指導をしていきたいですね」
そして何よりも音楽の楽しさ、クラッシックの楽しさを知ってもらいたい、伝えたい。
「楽譜に向き合っていると様々な情景が目にうかんできます。ポップスやジャズも良いけれどクラシックにしか表現できない奥の深さ、繊細さがあります」
彩さんは、チェロを弾くことは好きだけれど練習を楽しいと思ったことはないと話す。けれどある時ふとしたことで気づいた。
「練習とは単に繰り返すことではない。楽譜から読み取ったものを実現するために四苦八苦することなのです。基礎を学べばそこから表現力がついていく。そのための練習なのです」
小さい頃から想像力を動かし、音楽の楽しさを知ってほしいという。

仲むつまじく、これからも

彩さんは京都のご出身、郡山での生活は初めてのことで戸惑うことばかりだと笑いながら話されます。そんな彩さんをさり気なく受け止めユーモアのある言葉で包み込む良作さんです。
異国の地フランスで、25年間培ってきたふたりの音楽の歩み。それらを糧にしてこれからも仲むつまじく健やかに歩いていってくださいね。
良作さんのお母さまである向山加津子さんのページもあります。
郡山全集「音楽は、たのしい」038をどうぞご覧下さい。kマーク

2016.2.4 取材

プロフィール
●向山良作
郡山市出身。幼少時よりピアノを伯母である故尾上禎子に師事。福島県立安積高等学校、上智大学外国部学部フランス語学科を経て渡仏。パリ・エコールノルマル音楽院にてフランソワーズ・ビュッフェ=アルセニエヴィッチ女史にピアノを師事。
ピアノ高等教育課程、高等演奏課程ディプロムを満場一致で取得し、ピアノ研究科を修了。パリ市内の公私立の音楽教室でピアノを指導。2001年より榊原彩とデュオコンサート活動を開始。パリと日本各地で定期的にコンサートを開く。また、歌の伴奏や合唱団の伴奏者としても活躍する。2015秋に帰国。

●榊原 彩
京都市出身。桐朋学園女子高校音楽科、桐朋学園大学音楽学部卒業。故井上頼豊にチェロ、故徳永兼一郎、安田兼一郎、堀正文諸氏などに室内楽を学ぶ。渡仏後アラン・ムニエ氏にチェロを師事、パリ第8大学修士課程で音楽学を学ぶ。
1994年よりチェロコンサート活動を開始。現代舞踊や演劇などの創作舞台、タンゴと現代音楽のトリオに参加するなど幅広い活動をする。サン・ティポリット音楽フェスティバルにてコンチェルトを演奏。現代音楽室内合奏団オーピュス・オープンのメンバーでもあった。2015年秋に帰国。