067赤とんぼ
栗田誠一さん

栗田誠一さん。
歌が好きで、若い頃に歌を習っていたそうです。昔は、演歌歌手になりたかったらしいですよ、と美奈子さんがこっそり教えてくださいました。

美奈子さん

ここまで来るのは苦労がありました。ただ付いて来ただけですけれど、と明るく話す栗田美奈子さん。
楽しみにしていることは、年に一度開かれるホテルのOB会。
「あなたが来るなら行くわよ、と言ってくれる友人がいます。何でも話せる人がいることは嬉しいことですね」

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赤とんぼ

サラダの店 赤とんぼ

「サラダの店 赤とんぼ」は、郡山駅前大通り沿いにある。
お店の看板やメニュープレートにぬくもりを感じるどこかなつかしい洋食屋さんだ。お店はご夫婦二人で営んでいる。昔ながらのナポリタンなど多彩な洋食メニューが揃い、それぞれのセットに山盛りのサラダが付き自家製ドレッシングでもりもりいただける。
今から40年ほど前、当時の赤とんぼは駅前のアーケード街にあった。
サラダの美味しい店があるんですよ、と年下の友人に誘われ初めてグラタンを食べた。
表面にトロリとかかっているのがホワイトソースなるもので、グラタンはこのソースが決めてであることを友人に教えられた。器にこびりついているおこげを丁寧にとりながら、ここが一番旨いんだよねえ、としあわせそうに笑った友人の顔を覚えている。
その時にいただいたサラダはキュウリサラダ。キュウリはスティック状の乱切りでトマトやタマネギと一緒にそれは見事に盛り込まれている。醤油がベースのドレッシングでいただくキュウリサラダはクリーミーなグラタンとよく合いとても美味しかった。
今も変わらないその味をいただくたびに、あの日のことを思い出す。

これからもこの味で。このやり方で。

ご主人の栗田誠一さんと奥さまの美奈子さんは東京のご出身。二人は帝国ホテルで働いていた。
「主人は厨房で、私はウェイトレスの仕事をしていました。郡山に来たのは昭和46年の5月21日でした。郡山でお店をやりたいという方がいて主人に声がかかったのです。その頃は結婚して子どもが産まれたばかりでしたので驚きました。寝耳に水でしたね」と美奈子さん。ホテルでは、仕込みなら仕込みだけなど持ち場の仕事だけを専門にこなす。若い誠一さんは、声をかけてくれた人の元で下積みをする覚悟で自分の腕を生かすことを決意する。
「私も、せっかく縁があって一緒になったのだからと付いて来ました。でもね、全く知らない土地ですし、日中は子どもと二人だけの生活。ホームシックになり当初は一週間に一度は東京へ帰っていましたね」となつかしそうに微笑む。
その後、二人で店を受け継ぎ、今の場所に移ってからは25年になる。
「主人は職人なので、盛り付けひとつにしてもうるさいので、人は使えません。材料を粗末にしてはいけない、手早くしなければならないなど今も自分に言い聞かせていると思いますよ。ホテルにいた頃も誰よりも先に厨房に入って少しでも多く仕事をしていました。そういう人なのです」
今でも仕込みには機械など一切使わずにひとつひとつ手で丁寧に仕上げていく。他にはない味、自分の味を守ることも徹底している。
「例えば、私がお客さんの反応をみて料理の味をこうした方がいいのではと持ちかけても、いや、これはオレの味だから変えられない、と絶対に変えません」

「家では、おまえの料理が食べたい」

「家で私が主人に料理を教えてって言うとね、家では家のがいいんだ。家に帰ってからはおまえの味、おまえの作ったものが食べたいと言われます」
家では決して文句は言わない。出されたものは残さずきれいに食べ、美味しくいただきましたと食事を終えるという誠一さん。
「身体のことを考えて、お昼ごはん用にお弁当を作った時には、家で作ったものは店では食べない。おまえの作ったものは家で食べたいんだ、と言われました」
美奈子さんは自宅で、時間を見つけて料理をこしらえ冷凍しておく。
例えば、ホーレンソウを茹でで冷凍する。餃子やおはぎもたくさん作って冷凍しておく。おはぎは30コほど、餃子なら100コ位を一度に作る。それを知り合いの方に差し上げることもある。
「家に帰ってから、いつもの味が食べたいと思うとそれしかない。特別な料理でなくてもいいんですよ。質素でも自分の作ったものをいただくのが一番ホッとしますね」
梅干しやタクワン漬けも作るという美奈子さん。年をとってくるとだんだんめんどうになってくるけれど、そんなこと位しかできませんからと明るく話す。

震災直後のこと、忘れられないこと。

「3.11の震災後3日目で店を開けました。あの時は街中のレストランが閉まっていて食事をする所がなかった。お客さまは本当に喜んで下さいましたね。一番先にいらしたのは、大熊町から避難して来た方でした。サンダル履きで着の身着のまま、原発の白い煙が上がってすぐに家を出たと言っていました。こんな格好でごめんね、鞄に子どもの身の周りのものを入れるのが精一杯で何も食べないで出てきた、子どもと奥さんは車の中で待っている。自分がごはんを食べないと運転できないから、と話すのを見てかわいそうで涙が出ました。今でも忘れられません」
そのあとにもずいぶんそういう方が来てくれたそうです。
「郡山は安全ですよ、自分たちは原発の目と鼻の先から逃げてきた。ここに来てやっと安心して眠れるようになりました」
美奈子さんは多くの方がそう話すのを聞いて郡山は安全なんだ、不安や不足を嘆いてはいられないと思ったと言います。
誠一さんは、昨年の6月に突発性難聴になりました。
「震災後のストレスが原因でしょうね。場合によってはやりとりがどうしても大声になるので側にいる人には夫婦ゲンカに聞こえてしまうのが悲しいかな。でも、一緒に働いているということは、ムっとすることもあるということですものね。身体がしんどいならいつでもお店をやめていいよ、と話すこともあるのですが、朝になると“おかあさん、行ってくるよーっ”と元気に出かけていきます」

お話は、美奈子さんにお聞きしました。
厨房をのぞくと誠一さんが仕込みをしているいい匂いが漂っています。
声をかけるとやさしいお顔立ちの誠一さんがにっこりとされました。
誠一さん、美奈子さん、ありがとうございました。kマーク

2012.06.08 取材

サラダの店 赤とんぼ
郡山市中町10-3 一力ビル1F
TEL024-933-9556
営業時間/ランチ午前11時〜午後3時
ディナー午後5時〜午後9時
定休日/火曜日
駐車場/近くに有料駐車場あります。
2,000円以上のご飲食で1時間分の駐車料金をサービスします。